とんま天狗は雲の上

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良い専門家・悪い専門家 - 若者閉じ込め対策は正しいのか

 このところ、新聞を開くたび、テレビでニュースを見るたびに驚くことが続いている。何より、先週の安倍首相による突然の休校要請には驚いたが、その後の首相会見や国会答弁は、あまり期待をしていないということもあって、まあ想定内。しかし一昨日の専門家会議の「10代から30代の若者が感染拡大の要因」という会見には、また驚いた。確かに間違ってはいないかもしれない。しかし、会見で指摘したライブハウスなどでの感染拡大は、既にイベントやコンサートの中止などで、その危険性は少なくなりつつあるのではないか。

 一昨日の国会で、松川議員から「高齢者は歩かない」というヤジがあり、問題となったが、実際は歩き回る高齢者こそが感染拡大に一役買っている可能性も高い。10代から30代の若者のうち、学生は学校が休校し、自宅待機を指示され、一部には徒党を組んで街を出歩く者もいないではないが、多くは静かにしている。既に就職している者も、テレワークで仕事ができるものは少なく、ほとんど平日は出勤し、休日は家でゲームなどに興じていることだろう。一方、スポーツジムや病院通いを案じてそれらの施設には行かなくなった高齢者の多くは今、買い溜めのためにショッピングセンターをハシゴしているのではないか。

 学校が休校し、多くのイベントが中止となった今、なぜ、若者を名指ししてスケープゴートにするのだろう。これは要するに、突然の学校休校要請を正当化するために、専門家会議に対して「若者の行動制限が必要だ」という後付けの根拠を求めた要請に応えたものではなかったか。会見で専門家会議の押谷教授は、「若者層で感染が大きく広がっているエピデンスはない」と話している。朝日新聞の見出し「若者が感染拡大のもと?『根拠はないが、説明つかない』」は、記事内では明確に書けないことを、見出しで暗に伝えようとしているようだ(有料会員ではないので、記事後半に何が書かれていたか、わからないが)。

 我々は、専門家会議と言われれば、何か絶対正しいことが説明されるかのように思ってしまう。でも現在、厚労省に設置されている新型コロナウイルス感染症対策専門家会議に参加している専門家の全員が感染症の専門家ではないし、政府機関が設置した機関であれば、当然、政府寄りというバイアスがかかっていると考えるのは必要なことだ。少なくとも、最近テレビに頻出している白鴎大学の岡田晴恵教授は専門家会議のメンバーではない。

 私も一応、ある分野の専門職として長い間、仕事をしてきた。しかしだからこそ、その業界の中で、自分が何に詳しく、どの分野は詳しくないかはある程度、認識している(詳しくない分野の方が多い)。新型コロナウイルスは今回初めて発生したものであり、真の意味での専門家はいない。みんな、他の感染症の事例や中国等からの学術報告等を参考に発言されているのであり、それらの情報をどう読み込み、判断するかという点ではもちろん、我々より優れていることは間違いないが、すべてが正しいわけでもない。専門家であることをよいことに、デタラメな話をする「悪い専門家」が紛れ込んでいることだって否定できない。

 先日の「若者感染拡大説」を主張した先日の専門家会議もけっして間違ったことを言っているわけではない。しかし、高齢者の行動による感染拡大だって当然あるし、今までの感染事例はそうしたことを物語っている。本来であれば、「高齢者だけでなく、若者も感染拡大の原因となるような行動は控えてほしい」と言うべきであろう。なぜか、その前半が落ちてしまった。高齢者が拡大行動を控えることは今や常識となったのか? いや、そうとは思えない。現にショッピングセンターやドラッグストアには高齢者が殺到しているではないか。

 情報は難しい。先日の専門家会議の会見も、ひょっとしたらマスコミによって後半だけが切り取られて報じられた可能性もある。今は何もかもが不安であり、不信である。パニックの一歩手前という感じ。だからこそ政府には、医療機関からの検査希望にはすべて対応するなど、エピデンスを伴った対策を迅速に進めてほしい。政府では先日から新型コロナウイルス対策を勧めるテレビCMを始めたが、そんなところに金を使う余裕があるなら、医療・検査体制の充実に予算を回してほしいと、心底思う。