感染拡大が止まらない。しかし先週末に想像したほどには爆発的に感染が増えているわけでもない。これは、特に首都圏など医療崩壊寸前な状況の中で、検査を抑えているということかもしれないが、都内などではテントでのPCR検査も始まっているから、今後また感染数も大きく変化していくかもしれない。
それ以上に揺れ動いているのが、政府の対策だ。非常に限定的な30万円給付策が厳しい批判にさらされると、あれほど拒否していたのが一転、ついに一律10万円給付を行うことになった。発表されればされたで、「外国人には給付するな」という差別的な言辞を吐く人や、生活保護世帯や年金受給者への給付、また富裕層へも一律に給付することについて批判的な意見もあったりして、ネット界も大騒ぎになっている。麻生財政相の「要望される方に限る」といった意見はその代表かもしれない。
そもそも、生活困窮者に対する30万円給付は「生活支援対策」として構想されたもので、ただ対象があまりに限定的で、複雑だった。私は前々から、「前年または前々年の所得が(例えば)500万円以下の世帯には一律給付」といった単純な仕組みがいいのではないかと思っていた。あえて「前年または前々年」としているのは、前年の確定申告が終わっていない世帯があること、そして、前々年の所得が少ない世帯は前年の所得のいかんに関わらず、収入が不安定だったり、貯蓄が十分でなかったりするだろうから、前々年の所得で線引きしてもかまわないと考えたから。ちなみに、給付金は雑収入として扱えば、翌年の確定申告で調整すれば足りる。
もっともこれでは申告制になり、先の30万円給付時の条件ほどではないにしても、審査等に時間を要する。その意味では、無条件に全国民一律10万円給付もやむを得ないと考えている。ただし、来年の確定申告までにはまだ時間もあるので、給付金の税制上の扱いについては検討の余地があるかもしれない。雑収入として課税するというのもありだし、もっと高額の税率を適用してもかまわない。少なくとも、麻生氏が言うように、今回の給付に何らかの選別や作業を加えることには反対だ。生活支援対策としては今でも十分遅い。これ以上遅らせては本当に、コロナではなく、政策で国民の命を奪うことになりかねない。
それでも、当面、金銭的には困っていない世帯も多いだろう。一律給付は生活支援を目的とするが、生活支援が不要な世帯にも給付することには間違いはない。そうした世帯の多くは、10万円の給付を受けたとしても、そのほとんどは貯蓄に回るだけだろう。今、カネを使いたくても使える状況にない。旅行もいけないし、高級品を買いたくてもデパートは閉店している。しかし、そんな世帯も新型コロナが収束した時には積み上がったカネを、積み上がった鬱憤とともに発散するはずだ。つまり、10万円の給付金は、生活困窮世帯にとっては生活支援であり、その他の世帯に対しては経済対策なのだ。
とは言っても、これはあくまで、新型コロナウイルスの感染が1~2ヶ月程度で収束すると想定しているからこその対策だ。生活困窮者にとって10万円の給付はせいぜい1ヶ月分の生活費にしかならない。1ヶ月後には「これでは足りない」という声が必ず出てくるだろう。その時にもまた一律10万円給付というわけにはいくまい。とりあえずはこれでいいとして、コロナ禍がさらに3ヶ月、半年と続く可能性も高い。その時にどうするか。政治家や財務省などには今から、先手先手の政策検討を進めてほしい。