とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

感染爆発・新型コロナ危機

 「田中宇の国際ニュース解説」は欠かさず読んでいる。ただし有料会員ではないので、無料配信記事だけ。本書は、中国武漢新型コロナウイルスの感染が爆発的な広がりを見せ、横浜港に大型クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」が入港した翌日の2月4日から7都府県を対象にした緊急事態宣言発令後の4月11日までの配信記事を、日時の順に掲載したものである。第1部は「新型ウイルス」関連、第2部は「金融危機」関連でまとめられているが、新型コロナ危機が発生して以降、コロナ関連の記事は無料で公開しているので、第1部は配信当時に読んだ記事がほとんどだ。

 だが、改めてこうして順番に読んでみると、新型コロナを巡る状況がどういう経過を辿り、今に至っているかがよくわかる。その点で、現時点での今後の予測や方策を語る以上に、経過の記録として意味ある構成となっている。最初は中国だけの問題として認識していたものが、3月中旬頃からヨーロッパに広がり、あっという間にアメリカや世界に拡大していった。この間、日本では、突然の学校休校という対策もあったが、全般的には何とも緩い対策で終始している。その後の緊急事態宣言解除に至る動向はまだ記憶に新しいし、現在進行形でもあるが、現時点でここまでの2ヶ月の経過と田中氏の分析や考察を確認しておくことは意味がある。

 もちろん、今後、事態がどう動いていくのかわからない。第二波はどういう形で起こり、世界経済はどうなっていくのか。新型コロナ危機は田中氏が予測するように、過剰なQEによる金融市場の崩壊を引き起こし、米国覇権の崩壊と世界の多極化が現実化するのか。そして、コロナ終息後には新たな世界秩序の構築と発展が始まるのか。陰謀論者と陰口も叩かれる田中氏だけに、本書や田中氏の配信記事を鵜呑みにせず、常に眉唾な態度でいなければいけないと思ってはいるが、可能性として排除すべきとも思わない。また、田中氏が提示する世界転換は必ずしも我々にとって愉快なもの、ただ歓迎すべきものとも限らない。しかし、様々な意見や考察を耳に入れておくことは必要だ。何より、興味深い。これからも「田中宇の国際ニュース解説」の読者ではあり続けようと思う。ますます偏ってしまうかな。そんな危惧は持ちつつも、面白い考察を読むことはやめられない。

 

感染爆発・新型コロナ危機:パンデミックから世界恐慌へ

感染爆発・新型コロナ危機:パンデミックから世界恐慌へ

  • 作者:田中 宇
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

○米軍は今後、アフガン撤退と同時に、インド洋の公海警備の任務からも外れていくだろう。…だから日本は自衛隊の艦船をインド洋・中東に派遣せねばならなくなった。…中国や韓国も航路防衛のためにインド洋に海軍を出しており、日本はこの面で中韓との協力が不可欠だ。中国はすでに安保面で日本の「仮想敵」でなく反対の「友好国」である。(P63)

○ウイルス危機がこれから何年も続き、巨大な金融崩壊が発生するという前提ですべてのことを考えていった方が良い事態になっている。…事態はおそらく覇権体制の転換につながり、これは本来なら世界大戦によって引き起こされる転機だが、ウイルス危機は核戦争よりはるかにましだ。…今回は若者たちが生き残るので、危機終息・転換後の世界経済の発展がやりやすい。(P77)

○軽症や無発症で感染した後に治癒した人は体内に抗体を持ち、他人に感染しないし他人からも感染させられない。…抗体保有者…を対象に職場を再開…できる。この「集団免疫策」が現時点で最良のコロナ危機の解決策だ。…感染拡大防止策として徹底的な都市閉鎖をやること…は感染拡大を先送りするだけで…問題解決にならない。…ワクチンがない現状では、集団免疫の獲得しか解決策がない。(P127)

○多くの米企業が巨額の借金を抱えてウイルス危機に直面し、倒産しかけている。…金融界や投資家は、連鎖破綻させられたくないので、米連銀や政府に圧力をかけ、QE財政出動で自分たちの債券や融資債権を買わせようとしている。米国は、巨大な金融バブルを国有化しようとしている。…米国の金融市場は、すでに市場として機能していない。中銀群がどれだけQE資金を注入して買い支えるかによって相場が上下しているだけだ。(P188)

○リーマン後…米覇権主義の勢力は…米連銀を動かしてQEの資金注入をやらせ…米金融システムを延命させてきた。今回のウイルス危機は、そのQEを無限大まで拡張せざるを得ない状態に追い込み…米連銀を機能不全に陥れて米国の覇権を崩壊させ、世界を多極化しようとする、隠れ多極主義の構想だろう。…米国の覇権崩壊は不可避な感じだ。(P218)