とんま天狗は雲の上

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緊急事態宣言と罰則

 日に日に新型コロナ感染の第二波が広がっていく。「緊急事態宣言発出もやむを得ない」という意見が次第に強まる中、政府は依然として「再び出す状況にはない」と言い続けている。しかし、新型インフルエンザ等対策特別措置法と施行令を読む限り、4月の時点で発出したのならば、今回発出しないのは行政不作為に当たらないだろうか。法的にも問題があるように思われる。

 もっとも、緊急事態宣言を発令したところで、どんな措置を講じるか、という点では、前回とは異なる対応となることは何ら問題ないし、新型コロナの特性が次第に明らかになっていることや、医療体制、重症者の状況なども前回とは異なるわけだから、違って当然と言える。

 緊急事態宣言を発出したら、特定の業種には営業自粛を要請しなければいけないとか、その場合には営業補償もすべきだ、といった議論になりがちだが、法第45条の「感染を防止するための協力要請等」では、第1項で住民の不要不急な外出自粛、第2項では学校などの不特定多数が利用する施設の使用や催事の開催制限等について、それぞれ要請できるとしただけであり、要請しなくてはならないわけではない。

 緊急事態宣言発出後も、何も政府が色々な措置を講じる必要はなく、法で規定されているのは、宣言前に設置される政府対策本部で策定した基本的対処方針の変更と、都道府県知事等が実施する対策の総合調整、そして財政支援くらいだ。「Go To キャンペーン」もそうだが、どうも今の政府は政治的アピールにつながる何らかの政策を実施したがる傾向にあるが、法律における基本的な考え方は、対策は地方自治体に委ね、国は自治体に対する支援や調整を行うというものだ。

 だから、緊急事態宣言くらいサッサと発出し、あとは都道府県の対応に任せればいいのである。逆にいつまでも発出しないでいると、都道府県は法的な位置付けがないまま対策を講じることになってしまう。それを見越した愛知県では県独自条例を制定するという動きを示しているが、法的位置付けのない自主条例ではやはり弱いと言わざるを得ない。

 また、施設の使用制限や催事の開催制限に関し、罰則規定を設けるべく法改正をすべきという意見があるが、罰則があるから営業しない、罰則がないなら営業を続ける、という業者がどれだけあるだろうか。また、5月頃にパチンコ店の開業がマスコミ等で叩かれたが、結局、営業したパチンコ店が感染クラスターとなることはなかった。そもそも感染拡大に影響のある業種について規制をすべきで、あの時点で罰則規定があったとして、パチンコ店に利用制限をかけて罰則を適用したら、行政措置の的確性や公平性という観点で法的な問題に発展する恐れもあったと思われる。

 それよりも現時点で必要なのは、法第31条に基づく「医療等の実施の要請・指示」であり、同条第4項に規定する「医療関係者への必要な措置」だろう。また、第47条では緊急事態宣言を発出する状況になれば、医療機関等は医療などの措置を講じなければならない、と義務規定になっている。さらに第62条では第31条の要請に基づき医療等を行う医療関係者に対する実費弁償の規定もある。政府はその規定があるから、緊急事態宣言を発出しないのだろうか。

 それでは本末転倒だ。新型コロナの感染拡大に対しては、本年3月13日に改正した新型インフルエンザ等特別措置法に基づき、粛々と対応を進めるべきだ。緊急事態宣言を発出すべきか否か、などとマスコミが国民に問うていること自体が異常だと言わざるを得ない。