本書を読んだ多くの人は、陰謀論の本と思うかもしれない。だが、日頃、「田中宇の国際ニュース解説」を読んでいると、「さもありなん」と思わざるを得ない。いや、田中宇自身が陰謀論者という人は多いかもしれないが、田中宇は海外情報を読み込むだけでなく、主観的な感想や意見が書き込まれているが、本書は、グラハム・ハンコックの「神々の指紋」の翻訳者として、その後も海外の書物を読み込んできたそれらの紹介が中心になっている。特に前半は。もっとも、当然、彼が取り上げる書物や論文は偏っているわけだが、欧米や日本で流布される言論の多くが「英米支配者層のプロパガンダだ」という筆者の視座からすれば、取り上げるに足る情報を紹介していると言える。
私は「欧米の敗北」というタイトルに惹かれて読み始めた。だが、ほとんど全編、英米支配者層が自由や人権、民主主義と言いつつ、いかにウソにまみれたものかということを暴露することに終始する。
○帝国主義を嫌う中国、インド、ロシアと手を結び、英米支配者層の傲慢を打ち破り、謙虚なアングロサクソンの人々と手を握り、「庶民の世紀」「平和で庶民の心と懐が豊かになる黄金時代」を作り上げるチャンスが来た(P250)
と言われても、「そうだ、そうだ」と拳を挙げる気にはならない。まだあまりに将来は暗い。それともあと数年で、私が生きているうちにも、世界は多極化の時代となり、日本もアメリカの桎梏から逃れられる時が来るのだろうか。大地舜は1945年生まれだから、もうすぐ80歳。最後の「警鐘の本」ということなのかもしれない。
○現在の欧米の民主主義というのは、スーパーリッチたちのための民主主義であり、庶民のための民主主義ではない。そして、いまだに私たちは、欧米による帝国主義と植民地主義が罷り通っている時代に生きているのだ。…アングロサクソンが支配する国々は、いまだに貴族たちが支配する階級社会なのだ。(P036)
○米国政権とCIAは、世界中でさまざまな政権をクーデターで転覆させてきている。民主的な選挙で選ばれている政権でも、英米支配者層は気に食わないと転覆させる。…世界の多くの知識人の間で、欧米エリート層は、民主主義を守る存在ではなく、帝国主義者たちであり、自由民主主義の破壊者たちであることが常識となっている。つまり自由民主主義を守るという彼らの主張は、欧米のご都合主義によるプロパガンダにすぎないのだ。(P88)
○エイズの原因がHIVウイルスではないことは、すでに証明されている。/エイズという病気は存在せず、いくつかの病状の総称がエイズなのだ。/主な原因は人間の免疫力の低下だ。…同性愛はエイズの原因ではなかった…生活の質がエイズ症状を生む原因だったのだ。…HIVウイルスを発見して、ノーベル賞を受賞した…博士は、HIVは無害なウイルスだと主張している。…ところがこの事実を、世界中の大衆のほとんどが知らない。世界の支配者たちによるプロパガンダが成功しているからだ。(P115)
○GPPPを推進するスーパーリッチたちは、すでに世界保健機構(WHO)を支配下においている。WHOは国連の下部組織だが、資金を提供しているのは、80パーセントが民間企業と財団なのだ。国連加盟国が出している金額は20パーセントに過ぎない。…スーパーリッチたちは、お金の力で政治家、専門家、マスコミを手中に収め、民主主を骨抜きにして金権主義にして、世界の政治経済を支配することを狙っている。(P139)
○欧米諸国のいう…自由や人権、民主主義は、世界を一極支配する帝国主義のための詭弁に過ぎないのだ。彼らのいう自由や人権、民主主義は、白人たちのためのものであり、そこに黄色人や黒人…さらにいうと、同じアングロサクソンであっても、貧乏人たちは含まれていない。エリートや貴族だけが享受できるのが、彼らのいう自由や人権、民主主義なのだ。(P192)
○米国の経済学者マイケル・ハドソンは「ヨーロッパはすでに自滅している」という。/「ヨーロッパ諸国は、ホテルや接客業が主な成長分野となり、ヨーロッパそのものがポスト工業化社会の博物館となり、美術館は大繁盛するだろう。ユーラシア諸国の人々はヨーロッパを訪ね、封建時代の貴族や宮殿の衛兵など、騎士やドラゴンの時代の古風な思い出を楽しむことになる」とみている。(P220)