とんま天狗は雲の上

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我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上 アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか

 エマニュエル・トッドの評論は、(人によって賛否両論あるだろうが)けっこう的確で面白い。一方、本人の専門である歴史人口学・家族人類学に関する本はいずれも大部で読み通すのに難渋する。「文明の接近」「帝国以降」は読んだが、5年前に「家族システムの起源」を手に取ったときは、最後まで読み通せず挫折した。本書も図書館で受け取った時は最後まで読みおおせるか心配だった。だが、けっこう楽しく読み終えることができた。「絶対核家族」「平等主義的核家族」「外婚制共同体家族」「直系家族」そして「内婚制家族」。それぞれの説明もあり、おかげで何とか理解ができた。

 副題に「アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか」とあるが、直接それを説明しているわけではない。絶対核家族がなぜ「囲い込み運動」がイギリスにおいて容易に達成されたのか。そしてそれがいかに産業革命を主導したか。アメリカも核家族だが、少しイギリスとは違うようだ。そして核家族は、実は古いタイプの家族システムなのだと言う。

 下巻の副題は「民主主義の野蛮な起源」。どうやら核家族が野蛮な家族システムだからこそ、民主制が英米において発展し、派遣に繋がったということらしい。下巻では、直系家族の日本とドイツ、共同体家族のロシアと中国もそれぞれ章を起こして書かれているようだ。これは楽しみ。でもしっかり時間が取れる状況で読み始める必要がある。下巻を読むのはしばらく先になるかもしれない。

 

 

○西洋の科学技術的・経済的近代は、むしろ太古的な家族システムと符合する。ホモ・オキシデンタリス(西洋的人間)とは、その習俗においては、人類の古い共通基盤、原初の時代に地球上のあちらこちらで暮らしていた狩猟・採集民たちの共通基盤からさほど遠ざかっていない未開人なのである。…「新興の」といわれる国々の人間は…家族生活上の習俗に関していえば、中国人、インド人、アラブ人、アフリカ人は「進化」している。つまり、5000年前に始まった、共同体的で、父系的で、女性のステータスを低下させていく傾向を持つ複合的家族システムの生成発展によって形作られている。(P53)

○人類の原初的な人類学的システム…家族は核家族である。けれども…若いカップルと年配の両親が一時的に同居することもあり得る。女性のステータスは高い。親族システムは双系的、あるいは未分化と呼ばれ得るシステムで、母方の親族と父方の親族に…同等のステータスを与える。婚姻は外婚制…。しかし…教条的に固執するわけではない。離婚は可能。一夫多妻も可能…。兄弟たちや姉妹たちの家族同士の相互影響関係は強く、…どんな関係も完全に安定的ではない。家族も、個人も、分かれたり、再び結集したりする。(P145)

○集団の一体性は、他の集団への敵意に依存する。内部での道徳性と外部への暴力性は機能的に結合している。したがって、外部への暴力性のあらゆる低下は、最終的には、集団内で道徳性と一体性を脅かす。平和は、社会的に問題なのである。…いかなる絶対的アイデンティティも存在しない。ホモ・サピエンスという種において、集団のアイデンティティはつねに相対的である。(P154)

○イギリスの家族は、世代間の分離を、若者が親元から離れることを要求する。地理的・社会的移動を促すのである。イギリスの農民たちは土地にこだわっていなかった。遺産相続の規則は、兄弟間にどんな平等原則も定めていなかった。…機会の平等をアプリオリに重視することのない文化は…あらゆる社会的移動を助長する。…この文化のお陰でイギリスは、1780年から1840年までの間に、農村の人びとを根こそぎにしたといってよい未曽有の人口移動をやってのけたのである。(P261)

○・英米の絶対核家族には、自由主義的だが非平等主義的なイデオロギーが呼応する筈である。/・パリ盆地の平等主義的核家族には…自由と平等への信念が呼応する筈である。/・外婚制共同体家族には、権威主義的で平等主義的…普遍主義的な共産主義が呼応する筈である。/・直系家族には、権威主義的で不平等主義的なイデオロギー、すなわち社会民主主義キリスト教民主主義、ナチズムが呼応する筈である。/・外婚制でない家族システム…は、必ずしも反宗教的ではない独特の移行形態を生み出す筈である。(P283)