「Go To トラベル」キャンペーンの東京都を除外した22日からの実施が決まった。昨日のワイドショーは藤井翔太の最年少タイトル獲得の話題と並んで、「Go To トラベル」のことが大いに議論されていた。新型コロナウイルスの第二波と思われる感染が首都圏を中心に全国的に拡大しつつある中で、東京都は除外しつつも、あくまで「Go To トラベル」自体は実施するという政府の方針には、やはり強い違和感を覚える。
「感染が収まった後であれば、『Go To トラベル』自体の意義は認める」という意見も多く聞くが、コロナ禍によるインバウンド客の急減で観光業に大きなダメージがあったことは認めるが、今後当分インバウンド客が見込めない中で、補助金により無理矢理需要を創出するという方策が正しいとはあまり思えない。新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長が「『新しい生活様式』に基づく旅の在り方を周知する契機」なんてことを言っているが、感染拡大のリスクを冒してまでやることではないだろう。既に県境を跨いだ移動は解禁しているのだから、旅行に行きたい人は行くわけで、補助金を出してまで旅行を後押しするという意味が理解できない。
「『新しい生活様式』に基づく旅の在り方」は、旅行者の行動というだけでなく、観光業サイドこそが今後の観光はどうあるべきかを検討し、提案していく必要がある。当面、インバウンド客が見込めない中で、かつコロナによる感染拡大が懸念される中で、「県外移動者が恐いので、県内観光は当面『自重』しよう」で紹介したように、星野リゾートの星野佳道路さんが、「Withコロナ期の旅のありかた」として、マイクロツーリズムを提唱している。せめて「Go To トラベル」もこうした旅行を応援する形で、近県限定で実施すべきではなかったか。
だが、コロナ禍で影響を受けているのは観光業だけではない。「Go to キャンペーン」は「Go To トラベル」だけでなく、「Go to イート」や「Go to イベント」、「Go To 商店街」も予定されている。でも、コロナ禍で影響を受けた業界はこれだけじゃない。中でも懸念されるのは、医療機関。ならば「Go to 健康診断」でもしたらどうか。いや、これは冗談。経済対策としては、こうしたカテゴリー分けした支援ではなく、例えば消費税減税といった形での、全般的な内需刺激策を講じるべきだった。その意味では遅れに遅れ、ようやく特別定額給付金が多くの国民のもとに届き始めた。それで十分だったはず。
政治家にとってはカテゴリー分けすることで、各業界に対して、目に見える形でのアピールができるのだろうが、それは結局、業界との癒着や利益関係を生むこととなる。しかも、こうした補助金で支えられた業界は、Withコロナの時代における真の意味での新しい生活様式に応じた業態への転換が遅れ、結果的に産業として衰弱していく可能性が高い。だとすれば、さらに大きな無駄遣いとも言える。
実際のところ、これだけ「Go to トラベル」が騒ぎになって、来週の4連休にはどれだけの人が旅行へ行くのだろうか。半分補助金が支給されるとしても、残りは本人が負担するわけで、今後の長引く不況を考えれば、今、不要不急な支出をすべきかどうか、よく考える必要がある。また、旅先で迎えてくれる人々も「この人、感染していないよね」と疑心暗鬼の気持ちを抱きつつ対応する。心からのおもてなしでないことは明らかだ。せっかく旅行するのなら、もっと心から楽しめるものにした方がいい。
本来、政治や行政は、もっと謙虚に、裏方として国民の生活を支える形で行われるべきではないだろうか。安倍首相の取り巻きに経産省出身の官僚が多いと言われるが、この「Go To キャンペーン」についても、いかにも経産省的な臭いがする。鼻や首を引き摺りまわされて喜ぶのは、牛や犬くらいのもんだろう。いや彼らだって本当はもっと自由に行動したいはずだ。「Go To キャンペーン」に喜ぶのは、ニンジンを追いかける馬と同じだと自覚した方がいい。一口のニンジンよりも、栄養価の高い藁の方が長い目で見れば馬のためにもなるはず。