とんま天狗は雲の上

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時間の終わりまで

 タイトルを見て「時間論」かと思って借りてしまったのだけど、実際は「宇宙論」。宇宙の始まりから、その終わりまで、時間軸に沿って、何が起きるかを綴っている。筆者は、超弦理論を研究する物理学者。欧米では科学の案内人として著名な人だそうだ。

 だが、ただの「宇宙論」ではない。生物の視点から「宇宙論」を語る。それ故、第4章で生命の誕生を語り、さらに「意識」「言語と物語」「想像力や宗教」「芸術と創造力」と進んでいく。ただし、もちろんのこと、筆者はこれらの専門家ではない。よって、多くの生物学者言語学者、文学者、哲学者、宗教学者、その他の専門家の最新の論を紹介しつつ、論を進めていく。けっして何かの論を肩押しするわけでもない。パースペクティブを描くという役割。よって、正直、第4章から第8章までは面白くない。

 そして第9章以降、再び時間が進みだし、太陽の燃え尽き、銀河の消滅、星々の消滅、ブラックホームも消滅。そしてすべての物質はバラバラに飛び散っていく。だがそんな状況でもなお、生物の可能性、思考の可能性を考える。しかし結局のところ、最後はすべてが消滅する。そして最終の第11章では「死」の意味について考える。壮大な宇宙ロマン。

 だが、筆者が語る「宇宙論」はわかりやすい。わからないことはわからないと言い、数学が示すことと、それに対して証拠がないことも正直に語る。ビッグバンが起きる可能性は限りなく低い。だが、起きたから現在の宇宙がある。しかし、ビッグバンが起きるまでの時間は誰も待つ者がいないのだから、いつまでも待っていられる。起きたことは事実なのだ。そして宇宙の終末。だがそれは10の102乗年も先のこと。われわれはまだビッグバンからわずか138億年、10の10乗を少し過ぎただけのところだ。

 さらに筆者は物理法則が新たに書き換えられる可能性も否定しない。しかしそれでも物理学第二法則は変わらないと言う。ニュートン力学が少なくとも日常生活を送る限りは何の不都合もないように。物理学は今後、われわれにどんな未来を見せてくれるだろうか。たぶん何が発見され提唱されても、われわれの生と死には何の関係もないのだろうけど。でもやはりそこにはロマンがある。たとえ時間が終わりの時を迎えようとも。

 

 

○斥力的重力を生じさせてビッグバンをスタートさせるためには、インフラトン場の値が均一になった小領域が必要だ。…そんなものが見つかったことは、かつて一度もない。見つからない理由は…起こる確率がとてつもなく低いからだ。…しかし…気にすることはない。…その出来事が起こったのは、われわれがビッグバンと呼ぶ急激な空間の膨張が始まる前なのだから、インフレーションの膨張が始まるのをイライラしながら待つ者はいなかったのだ。(P106)

○重力は、核融合をスタートさせるために必要な高温高圧に到達するまで、恒星の中心部にある物質を圧縮させる。そうしていったん核融合が始まってしまえば、核融合の反応で、その後何十億年ものあいだ恒星を輝かせるだけのエネルギーを生み出すことができる。核融合は複雑な原子核を着々と合成するが、その一方で…エントロピーを光や熱として宇宙空間にばら撒く。…核融合で生じる複雑な原子と安定的に流れ出る豊かな光は、あなたや私をはじめ、豊かで複雑な構造を形成するためになくてはならない素材になる。(P125)

○これだけ多種多様な生物がいるからには、生命にはいくつもの起源があっても不思議はなかっただろう。…ところが、証拠が強く示唆するところでは、軟体生物もウォンバットもランも、同じひとつの先祖に収束するらしいのだ。この説にさらに説得力を加えるのが、生命が普遍的に持つふたつの特質である。…第一の特質は、生命の情報に関係するもので…第二の特質は生命のエネルギーに関するもの…細胞が生命維持に必要な機能を作動させるためのエネルギーを利用し、貯蔵し、配備する方法が、すべての生物で共通なのである。(P159)

○進化とエントロピーは今後も、変化を支配する決定的な要因であり続けるのだろうか? ダーウィン的な進化については、その答えはノーだろうと思われるかもしれない。…では、エントロピーはどうだろう。…この問いに対する答えは、間違いなくイエスだ。 (P428)

○物質が寄り集まってできている銀河は、引力的重力を及ぼし合い、銀河が飛び散る速度を小さくさせる。均一に広がる暗黒エネルギーは斥力的重力を及ぼして、銀河が飛び散る速度を大きくさせる。…今日の膨張は穏やかで、その程度の加速を説明するためには、ごくわずかな暗黒エネルギーがありさえすればよい。…暗黒エネルギーを支持する証拠には説得力があるが、あくまでも状況証拠でしかない。暗黒エネルギーを捕まえ…た者はいないのだ。(P442)

○もしも暗黒エネルギーが現在の値を保っていれば、空間の加速膨張のために粒子たちはスピードを上げて互いに遠ざかり、二度と相まみえることはないだろう。興味深いことに、この状況は、ビッグバン直後の時期のそれに似たところがある。…初期と末期の違いは、初期宇宙では、初期宇宙では、粒子密度がきわめて高かったので…恒星や惑星などの構造を容易に作ることができたのに対し、末期宇宙では、粒子密度があまりにも低くなり、空間は仮借なく膨張速度を上げていくため、恒星や惑星のような塊ができる可能性はほとんどないということだ。(P499)