妻の退院に備え、自宅の内外に手すりを設置した。妻が要介護認定を受けたので、もちろん1割負担である。だが、門から玄関までの階段脇に設置した屋外手すりは、要介護認定を受ける前に設置したため、補助の対象とはならない。妻が一昨年、膝の骨折をした後に、玄関先に手すりを設置しようと話していて、そのままになっていたが、今回の妻の入院を受けて、「今度こそ退院までに手すりを設置しておかなくては」と思い、いつもの工務店に電話した。
手すりの設置費用が介護保険の補助対象になることはわかってはいたが、妻がいつ、どういう状態で退院できるかわからないかったし、屋外の階段が石積みのためそもそも設置できるのか、可能であっても石材に穴を開けるなどの作業にそれなりの時間を要するのではとも思ったので、早めに電話をしてみた。その後の顛末については、「HCUに移る」や「介護保険の申請を行う」、「ようやく気管カニューレが取れる!」などで書いたとおり。介護保険の認定調査の申請をした時点で工務店の担当者には電話をしたが、結局、補助を受けずに工事をすることになってしまった。結果的には屋外手すりだけでも先に工事をしておいてよかったと思ってはいるが。
そして次は屋内手すり。「ようやくケアマネさんから連絡があり、今度こそ退院に向けて動き出した。」に書いたとおり、お試し外泊の2週間前、その日程が決まった月曜日の朝に、別件で工務店に屋根の修理を依頼。その時に初めて、屋外手すりの工事を担当してくれた社員が退社したことを知り、その夕方に手すり設置を依頼。今度こそ介護保険の補助を利用するため、ケアマネさんと工務店で直接連絡を取り合うように調整をし、設置個所や位置の確認などを行った。
補助申請の手続きは一切、工務店で実施するということで、何通かの書類に記名押印をして渡す。また、お試し外泊の日には「お試し外泊で退院後の問題を痛感する。どうなることやら。(その1)」で書いたとおり、本人立会いの下で設置高さなどを確認した。ただし、トイレ手すりの位置確認の際には、トイレが狭く多人数が立ち会うことが難しかったこともあり、浴槽に設置する福栖用具の手すりの必要性などを判断したかったので、私は浴室にいた。それがその後の悲喜劇を生む。
屋内の手すりが設置されたのはようやく退院の2日前。工務店の営業担当者と、下請けの作業員2名が来て作業をする。私は邪魔してはいけないと、近くの階段に腰を掛けて眺めていた。玄関の上がり框横の手すりは支障なく作業を終え、次はトイレ。ここで、作業員から「こんなに低くていいんですか?」と声が上がる。工務店の担当者は「本人が立ち合いの上、決めたので大丈夫です」と返事。「背の低い女性だから、こんな位置でいいんだ」などと会話をしつつ作業完了。続いて、浴室のシャワー横の手すり設置に移った。
一連の会話に不安を抱き、トイレを覗くと、なんと! L字型の横手すりが床から30㎝の高さに設置してある。縦手すりは入口の脇あたり。「何かおかしくないか?」とネットで検索すると、標準的には横手すりの高さが便器の座面から230~300mm。縦手すりは便器の前方200~300㎜と書かれている。どうしてこんなことになったのか。でも工務店の担当者は「本人の希望した位置です」と言う。そう言われるとその場ですぐに返す言葉がない。とりあえずその日はそのまま帰ってもらった。
しかし、何かおかしい? 担当者は「床から60㎝の高さにしたら『高過ぎる』というのでその高さになった」と言うのだが、よくよく考えてみると、確かに便座から立ち上がる時に、60㎝の高さの手すりは中途半端で身体を持ち上げることが難しい。30㎝の高さなら押し上げることもできる。だがそもそも横手すりは立ち上がる時に使うものか? いや、横手すりは座る時の支えであり、立ち上がる時は縦手すりを使うはず。縦手すりの位置が便器から遠く届かないために、妻は横手すりで立ち上がろうとし、30㎝の高さの手すりを希望したのではないか。そう考えれば辻褄が合う。工務店担当者が手すりの使用目的を理解せず、本人確認をしたのだ。確認の際に立ち会っていたのは、本人と工務店担当者とケアマネさんだったという。そして全員が素人だったのだ。やれやれ。私が立ち会っていればよかった。まさか工務店の担当者がそこまで無知とは思わなかった。彼に任せてしまった私がバカだった。
と、その夜のうちに大反省。それでも本人が希望した位置ではあるし、修正にはまた職人さんに来てもらう必要がある。経費もかかるだろう。いっそ自分で作業してもいいけど、電動ドライバーがないとビスの取り外しや取り付けも難しいかも。そんなことをあれこれ考えたが、やはりそのまま捨ておくことはできないと、翌日の夕方、思い切って工務店担当者に電話をし、位置の修正を依頼した。案外すんなりと「はい」と言ってくれた。ひょっとして完了届を高齢福祉課へ提出する必要があると言っていたから、市役所で意見をもらったのかもしれない。とりあえず、よかった。
でも、妻の退院には間に合わない。退院してきた妻も、手すりの低さに驚いていた。そして退院から1週間。ようやく位置の修正に来てくれた。娘も「ようやく普通の手すりになった」と声を上げた。妻も使いやすいと言ってくれた。よかった。それにしても、この顛末。冗談のようだが、まさかわが家で起きるとは。たまたま来年の春、高齢者住宅について話す機会がある。わが家のことで恥ずかしながら、絶好のネタになること間違いなし。それを良しと思うことにしよう。みなさん、介護のために設置する手すりにはそれぞれ目的と使用方法があることを忘れないようにしましょう。体験的失敗談でした。