今年読んだのは65冊(他に、都市・住宅関係の本が12冊。これも少ない)。今年は妻の病気もあり、年の後半以降は落ち着いて読んでいることができなかった。来年予定している仕事の準備に時間が取られたことも一因。中でも、面白いサッカー本に巡り合うことがなかった。来年はもう少し色々な本を読んでいきたい。
マルクスの「資本論」以降の「研究ノート」を読み込み、マルクスが資本主義の先の経済システムを構想していたと主張する。資本主義は人の幸福など眼中になく、「労働と生産」を食い散らし、貪欲に暴走するもの。広井良典らの定常型社会という夢想を乗り越え、ワーカーズ・コープといった具体的な方策も提示しつつ、新たな経済システム「脱成長コミュニズム」の構築を訴える。若い世代の台頭とともに、時代は変わろうとしている。その楽観に期待したい。
今年最も感動した作品。唯一、友人に読書を勧めた本でもある。史実を踏まえて書かれた小説だが、明治に生きる人々はこれほどまでに熱かったのか。そしてアイヌに生きる人々の力強さに圧倒される。アイヌとはすなわち「人」。人の強さと熱さを心底感じる、熱い作品だった。
【第3位】プラヴィエクとそのほかの時代(オルガ・トカルチュク 松籟社)
今年はポーランドの作家、オルガ・トカルチュクの作品を3作読んだ。最初に読んだ「昼の家、夜の家」で魅了され、すぐに「逃亡派」も読んだ。でも最初に執筆された(邦訳出版は遅かったが)本書が一番読みやすかったかな。既に邦訳4作目の「迷子の魂」も出版されているようだ。さっそく読まなくては。
【第4位】カササギ殺人事件(アンソニー・ホロヴィッツ 創元推理文庫)
久しぶりに面白い推理小説を読んだ。上巻の終わり、作中の「カササギ殺人事件」がいよいよクライマックスというところで、次の殺人事件が始まる。推理小説を書く作家の心中を書くミステリー作家という二重構造もあり、非常に面白い。今世紀最大のミステリー作品という評価は今後80年間で覆されるのだろうか。
【第5位】ネガティブ・ケイパビリティ(帚木蓬生 朝日新聞出版)
2017年に出版された本だが、「ネガティブ・ケイパビリティ」の重要性について語る。だが、「ネガティブ・ケイパビリティとは何か」ということは、あまりはっきりと語られていない。「共感」と「寛容」と「受容」。前に進もうとする意欲や目に見える能力ばかりが高く評価される時代だからこそ、真に必要とされる能力。その指摘には深く共感するのだが・・・。
内田樹の呼び掛けに応じた、11名の日韓関係に関する論文が収められている。中でも松竹伸幸氏の論文には驚き、さっそく「日韓が和解する日」を読んだ。1965年の請求権協定は適正に執行されているが、韓国大法院の判決では新たに、これまで欧米各国ですら認めようとしない「植民地支配の違法性」について問題提起していると言う。その他の論文も巧拙あるが興味深いものも多い。
【第7位】戦争取材と自己責任(安田純平・藤原亮司 dZERO)
シリアで拘束され、2018年に3ヶ月ぶりに帰ってきた安田純平にインタビューする形で進められる対談集。それにしても、日本政府の酷いことよ。彼らの情報は無用とし、米国から与えられる情報で足りると考えている限り、主体的な独立国とはなれない。日本は今後も米国の属国であり続けるのだろうか。
近代哲学の3つの謎、「存在の謎」「認識の謎」「言語の謎」について、既にニーチェとフッサールによって解明されているとして、それを説明していく。一方で、彼らを出発点としつつ迷い込んだポストモダンなどの相対主義を批判する。「自由な市民社会」の理念を追求していくことこそがより良い社会づくりのために必要なことであり、哲学はそのためのツールだと断言する。その心意気が伝わってくる好著である。
「ポーラースター」シリーズの第4部。カストロがゲバラと出会うまでの日々を描く評伝。たぶんこのシリーズもこれで終わりになるのではないか。しかしキューバではこの後に歴史が動いた。日本でもようやく安倍政権が終息したが、次の方向は定まっていない。日本にフィデル・カステロ=ルスが現れる日は来るのだろうか。
【第10位】「くらやみに、馬といる」(河田桟 カディブックス)
生でも死でもない、もう一つの世界がある。それが「くらやみ」の世界。くらやみの中で馬と触れ合う。その後に読んだ「動物感覚」は自閉症である筆者がいかに動物の心を理解するかを書いた本。アポリジニーには「犬のおかげで人間になれる」ということわざがある。人間は動物とお互い役割分担することで進化してきたそうだ。馬との交流から得られるものも多いに違いない。
【選外】
ベスト10内にいれようか迷ったのが、「生き心地の良い町」と「星に仄めかされて」
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「生き心地の良い町」は2013年に出版された本だが、「関心は持つが、監視はしない」という言葉がいい。徳島県旧海部町が自殺希少地域である理由だ。また、「星に仄めかされて」は「地球にちりばめられて」の続編。日本書紀からの引用や星々の名前に擬せられたりとなかなか趣向に富んでいるが、3部作の2作目ということなので、次の3作目に期待したい。
「2050年のメディア」も新聞からネットメディアへ移り変わっていく状況を、人を中心に描き、面白かった。現在のニュースメディアの未来はどうなっていくのだろう。また、「人類はなぜ<神>を生み出したのか?」も興味深く読んだ。あなたこそが<神>の仮姿であり、あなた自身が<神>であり、あなたが<神>を生み出したのだ。ま、そういうことです。