とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

2016年、私の読んだ本ベスト10

 今年読んだ本は70冊。昨年の75冊からまた減ってしまった。どうしてだろう。やはり白内障の影響で本が見にくいのかな。都市・建築関係の本は14冊。こちらは昨年とあまり変わらないが、実は購入しただけでまだ読んでいない本が数冊ある。それから今年は「フットボール批評」の購読を止めてしまった。やはり値上げは痛い。その影響でサッカー本を読む機会も減ったかなと思うが、第1位と第2位に選んだ2冊はいずれもサッカー本。というか、木村元彦氏の本を2冊、最上位に選んでしまった。サッカー界から社会の矛盾を描き出すという手法はかなり有効だ。

 

〇一般書籍・雑誌

【第1位】徳は孤ならず (木村元彦 集英社

 まずは今年最後に読んだこの本。読んだばかりで強く印象に残っているということもあるが、やはり今西和男の生き方が印象的。私もお手本にしたい。

 

【第2位】橋を架ける者たち (木村元彦 集英社新書

 こちらはサッカーを通して在日朝鮮人の問題を描き出す。帰国運動で北朝鮮へ帰った人もいれば、在日本朝鮮蹴球協会で在日の選手の活躍を支援する人もいる。何より、「ヘイトスピーチは日本社会の問題」という言葉は重い。

 

【第3位】プラハの墓地 (ウンベルト・エーコ 東京創元社

 ウンベルト・エーコが亡くなった。あの幻惑的な小説をもう読むことはできない。最後の小説は「ヌメロ・ゼロ」だが、やはりこちらの方が大作にして面白い。

 

【第4位】京都ぎらい (井上章一 朝日新書

 今年のベストセラーの一つ。特に筆者の井上章一氏とは年も近く、同じ建築学科で学んだだけに親近感を感じる。ホント、京都人って嫌だよね。もっとも最近は本書で描かれているような生粋の京都人は少なくなったのかもしれない。

 

【第5位】オリエント社会はなぜ崩壊したか (宮田律 新潮選書)

 イスラムと言えばテロと思う現代。だがそんな状況にしてしまったのは西欧諸国であって、本来のイスラムには寛容の精神が流れている。中でもオスマン帝国が衰退していったのがわずかここ数十年のことだったとは改めて世界の変化の速さを感じる。

 

【第6位】天使とは何か? (岡田温司 中公新書

 天使といっても一つではない。キューピッド、ミカエル、ルシフェルセラフィムなど多くの天使がいて、人間と様々に関わってきた。そんなことが聖書に書かれている。そして多くの天使を描いた絵画や音楽など。聖書世界の多彩さに目が開かれる思いがした。

 

【第7位】世界の果てのこどもたち (中脇初枝 講談社

 この本はどうやって知ったんだろう。ほとんど期待もせずに読み始めたが、戦時中、そして戦後の在日朝鮮人、中国残留孤児の問題など、今に至る多くの問題が3人の孤児の人生を通して描かれる。戦後は今も続いている。単に忘れればいいというわけではない。

 

【第8位】チェ・ゲバラの遥かな旅 (戸井十月 集英社文庫)

 今年のマイブームは「チェ・ゲバラ」。奇しくもキューバがアメリカと国交を回復し、フィデロ・カストロ元大統領が亡くなった。きっかけは海堂尊「ポーラースター」だが、その後、2冊のルポルタージュを読み、まだ三好徹の「チェ・ゲバラ伝」は積読状態になっている。海堂尊の続編も楽しみだ。

 

【第9位】羊と鋼の森 (宮下奈都 文藝春秋

 今年も何冊か小説を読んだが、一番面白かったのは「世界の果てのこどもたち」。ついで海堂尊「スカラムーシュ・ムーン」も面白かったけど、心にじんわりと染み込む秀作ということで本書を選んでおこう。

 

【第10位】死者が立ち止まる場所 (マリー・ムツキモケット 晶文社

 アメリカ人とのハーフである筆者が東日本大震災後の日本に戻って、日本の様々な宗教の形と巡り合う旅を重ねるルポルタージュ仮設住宅を訪ねる僧侶に同行し、総持寺永平寺で座禅を組み、恐山を訪ねてイタコに会う。日本旅行記でもある、文化論でもある。

 

 その他にも、「砂浜に坐り込んだ船」池澤夏樹 新潮社)や「村上春樹は、むずかしい」加藤典洋 岩波新書)、「困難な成熟」内田樹 夜間飛行)、「ちょっと気になる社会保障」権丈善一 勁草書房)、「サッカー右翼 サッカー左翼」西部謙司 カイゼン)、「ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領」(アントレス・ダンサ他 角川文庫)、「笑える日本語辞典」(KAGAMI&Co. 講談社)、「問題は英国ではない、EUなのだ」エマニュエル・トッド 文春新書)など、印象に残った良書は多い。それにしても、半年以上前に読んだ本はその内容をかなり忘れてしまっていることに愕然とする。これも老化ということなんだろう。

 

 〇都市・建築関係

 一方、都市・建築関係では次の6冊。「人口減少時代の住宅政策」は戦後70年の住宅政策を丁寧に振り返り、今後の住宅政策を構想するもの。まさに今こそ住宅政策は大きな曲がり角にいる。新国立競技場の設計者問題が話題になった昨年。今年はコンペで競った伊東豊雄隈研吾が一般人に広く認識された年だった。そうした状況を踏まえての「現代建築のトリセツ」。松葉一清氏の慧眼はいつもながらさすが。五十嵐太郎「日本建築入門」もよかった。新国立競技場から遡って、日本の建築論を俯瞰する。

 最近は空き家対策が住宅問題として取り上げられることが多いが、現状は既にその先を行っている。「限界マンション」は老朽化した区分所有マンションの問題に警鐘を鳴らす。また、「ショッピングモールから考える」は、思想家の東裕紀と大山顕の対談。建築界では商業施設として扱われるショッピングモールの現代性やデザインに光を当てる。ちなみに大山顕千葉大建築学科卒だ。そして、「小さな建築」は象設計集団の富田玲子が自らの半生と建築に対する思いを綴った好著。優しい気持ちになれる。

 

人口減少時代の住宅政策 (川崎直宏他 鹿島出版社)

現代建築のトリセツ (松葉一清 PHP新書

日本建築入門 (五十嵐太郎 ちくま新書)

限界マンション (米山秀隆 日本経済新聞出版社

ショッピングモールから考える (東裕紀・大山顕 幻冬舎

小さな建築 (富田玲子 みすず書房