とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

読書

現代思想入門

今年の春に発行された時、けっこうな話題となっていた。でも、千葉雅也って誰だ? それで、千葉雅也と國分功一郎の対談本である「言葉が消滅する前に」を先に読んでみた。でも、千葉がどうやら同性愛者だということ以外、あまりよくわからなかった。それで本…

マスメディアとは何か

日頃、とかくマスコミに対しては「マスゴミ」などと否定的に言ってしまうことが少なくない。一方、マスメディアの効果に対してはプロパガンダという言葉に代表されるように過大に評価し、恐れるイメージがある。本書では冒頭の第1章「メスメディアは『魔法の…

長期腐敗体制☆

「長期腐敗体制」というタイトルからは、安倍政権から現在まで続く自民党政権を批判する本だとは知れるが、単に政権批判の本ではなかった。2012年の年末、衆議院解散総選挙で自民党が大勝し、安部二次政権がスタートしてから現在までの状況を「2012年体制」…

ルポ 誰が国語力を殺すのか

久し振りに石井光太を読んだ。社会の最底辺の人々を取材し、ルポタージュしてきた石井。だが、それは読む者にとっては、少ししんどい。「国語力」というテーマなら多少は気楽に読めるかなと思い、本書を手に取った。でももちろん石井光太が取り上げる現場は…

撤退論

4月に本書が発行された時、すぐに読みたいとは思わなかった。「撤退」という言葉に嫌悪を感じた。10年ほど前なら特に違和感なく手に取っただろう。だがそれからだいぶ時代が変わった。いや単に私が定年退職し、毎日、家で過ごすようになったからだろうか。そ…

アーセン・ヴェンゲル自伝 赤と白、わが人生

Jリーグが開幕し、当然のように地元のグランパスを応援した。開幕当初はガンバ、レッズと並んでお荷物クラブのグランパスだったが、ヴェンゲル監督が就任してサッカーが変わった。Jリーグでは2位まで躍進し、天皇杯を制した。しかし翌年のシーズン半ば、突如…

ほんとうの多様性についての話をしよう

大きな字、わかりやすい表現。借りる前から薄々は想定していたことではあるが、ひょっとしてこれは子供向けの本だったかもしれない。「ドイツ人の父親と日本人の母親の間に生まれ、23歳までミュンヘンで過ごし、その後20年以上に渡り日本に住んでい」(P7)る…

過剰可視化社会

SNSの流行やコロナ禍において、情報を「見せる」ことで国民を操ろうとする傾向や、自らカミングアウトすることで安心を得ようとする傾向が強まったという。そうした状況を「過剰可視化社会」と批判し、人間本来の安心・信頼のある社会を創っていくためには、…

歴史人口学で見た日本(増補版)

本書は2001年に出版されたものの増補版である。筆者の速水融は2019年に90歳で亡くなったが、日本における「歴史人口学」はまさに彼が導入し、発展させてきた学問である。「教区簿冊」を研究することで「歴史人口学」を創設したルイ・アンリの方法に倣い、速…

「日本型格差社会」からの脱却

先に読んだ「逆境の資本主義」でも、資本主義の問題は、格差を拡大してしまうところにあることがわかる。日本においても格差の拡大が大きな問題と立ち現れている。そこで本書を手に取った。筆者の岩田規久男は2013年、黒田日銀総裁とともに副総裁に就任した…

逆境の資本主義

日本経済新聞で2020年1月から始めた連載記事を中心に構成した本だと言う。「逆境の資本主義」「「コロナと資本主義」という二つのテーマの下に、資本主義が直面している問題とその解決策について、世界の著名な経済学者や投資家などにインタビューをしていく…

気候変動の真実☆

筆者のスティーブン・クーニンはカリフォルニア工科大学の教授を長く務め、オバマ政権下ではエネルギー省の科学担当次官も務めたアメリカを代表する科学者の一人だ。民主党はゴア副大統領の頃から地球温暖化対策に積極的に取り組んできた。トランプ大統領の…

フットボール批評issue36

「参謀」という特集だが、結局、監督ひとりでは強いチームを作ることはできない。社長やGMなどの経営陣はもちろんだが、ヘッドコーチ以下、一丸となって取り組まなくてはならない。どれほど優秀な参謀であっても、監督との良い関係性があって初めて生きる。…

コロナ後の未来

「あとがき」に以下のような文章があってびっくりした。 ○2000年代を迎えるにあたって私たちは「ミレニアム」と口にして、新しい時代の訪れを寿ぎました。…世界はつながり、どんどん快適になっていく―。/グローバリゼーションの熱に浮かされた私たちの危う…

ノーベル文学賞のすべて

「ノーベル文学賞のすべて」というタイトルに、その選考における様々なエピソードや選考方法とその偏りなどが紹介されていることを期待した。編著者の中心である都甲幸治が綴る冒頭の「ノーベル文学賞とは何か」でそうしたことが説明される。が、なにせ1901…

ポリコレの正体

女性差別等がしっかり解消されない中で、LGBT等に対する施策ばかりが進んでいく状況には違和感を持っている。まるでLGBT施策に取り組んでいれば、女性差別問題のみならず、障害者や生活困窮者の問題等も解消されるかのようだ。「障害者」と言えば、「害」の…

デジタル・ファシズム

一昨年来のコロナ禍では、台湾や韓国、中国などに比べて、日本のデジタル化の遅れが指摘された。そうした状況の中、昨年5月にはデジタル庁が発足した。マイナンバーカードの普及はそれ以前から強く勧められ、昨年秋からは保険証との連携も始まった。ポイント…

言語が消滅する前に

最近出版された千葉雅也の「現代思想入門」が話題だ。でも、本の帯に載せられている写真がチャラい。ちなみに、本書の表紙も、スーツで決めた國分とジャンバーにTシャツの千葉が並んでいる。千葉雅也ってどんな人間なんだ。そういう興味で本書を読み始めた。…

現代生活独習ノート

2012年から2021年にかけて、「群像」誌で発表した短編小説8編を収録する。「現代生活独習ノート」というタイトルが示すように、いずれも日常的な日々の中の個人的な思いを綴る。だが、どの作品も日常的ではあるが、必ずしも尋常ではない。 本のタイトルと似…

奏鳴曲

北里柴三郎と森鴎外の伝記である。森鴎外はもちろん文豪として知られるが、同時に陸軍軍医の最高位・軍医総監にもなった。そのこと自体は知らないでもないが、ではどういう実績があったのかとなると、寡聞にして聞かない。二人は発足間もない東大医学部の同…

地方メディアの逆襲☆

新聞やテレビなどの既存メディアの未来を心配する声は多い。だが、地方メディアは全国紙やキー局とは違う。「現実と事実と真実」でも書いたが、全国メディアが伝える「事実」はどこまで「真実」かわからないし、それを伝えるだけであれば、方法は色々ある。…

頼朝と義時

「鎌倉殿の十三人」を毎回視聴している。大河ドラマを観るのは久し振りだ。けっこうおもしろい。やはり三谷幸喜の脚本が抜群に面白い。大泉洋や小池栄子らの演技もこのドラマを盛り上げる。源平合戦から鎌倉期に至る歴史は、歴史の授業で習いはしたものの、…

この国の「公共」はどこへゆく

文部科学省OBの寺脇氏と前川氏。その前川氏と中高時代の同級生でラグビー部でも一緒だった城南信用金庫元理事長・現名誉顧問の吉原氏の3者による鼎談の記録。寺脇氏と前川氏が長く教育行政に携わった立場から「公共」を語るのに対して、吉原氏は金融マンだが…

タリバン 復権の真実☆

昨年8月、アメリカがアフガニスタンから撤退し、再びタリバン政権が復活した。タリバン復権によるイスラーム原理主義による政治運営に対して、女性差別や女子教育の停滞などの懸念が語られたが、その後はコロナ禍やウクライナ情勢などもあって、現状のニュー…

フットボール批評issue35

特集は「サッカー4局面の解剖学」。だが、このところ冒頭に掲載される連載、「現代サッカーの教科書」と「フットボールの主旋律」では、まず4局面を否定するところから始まる。しかしそれはあくまでドイツやイングランドの最先端のサッカーの話。実際にはま…

炎上するバカ させるバカ

1年ほど前に「恥ずかしい人たち」を読んで、もう中川淳一郎を読むのは止めようかと思ったのだが、「負のネット言論史」という副題に釣られて、また読んでしまった。ネットが登場して以来、特にツイッターが一般に普及して以降の炎上の歴史を振り返る。コンビ…

遠慮深いうたた寝

エッセイ集である。神戸新聞で「遠慮深いうたた寝」のタイトルで2010年以降連載し続けているエッセイ。「物語」や創作に関するエッセイ。書評など、他の作家や作品に関するエッセイ。そしてその他のエッセイ。それらが順序良く収められている。 そして各エッ…

コロナ狂騒録☆

「コロナ黙示録」は、新型コロナ感染の第1波が収束した2020年5月までを対象とする。本書はそれ以降、自民党の総裁選が始まった9月から東京五輪開催直前の2021年7月まで。この後、これまでにない規模の第5波が始まる。本書ではそれを予測する学者が登場するが…

クララとお日さま☆

カズオ・イシグロの最新作をようやく読むことができた。 前作の「忘れられた巨人」はファンタジー。そして今度はSF。「わたしを離さないで」を思い出す。「わたしを離さないで」は人間の代替となるクローンとして育てられた少年・少女たちを描いた。一方、本…

この国のかたちを見つめ直す

加藤陽子と言えば、一昨年の菅政権による学術会議の新会員候補から除外された6名のうちの一人ということで一躍有名になった。私はと言えば、岩波新書の「シリーズ日本近現代史(5) 満州事変から日中戦争へ」を読んだ程度。その時の感想は、学術的だが当たり障…