とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

読書

マルクス

斎藤幸平の「人新世の『資本論』」以降、マルクスがちょっとしたブームになっている。白井聡もそれに追随したということかもしれないが、白井聡らしいマルクス論になっているかもしれない。本書を先に読んだら、専門用語が難しく、あまり理解できなかったか…

パウル・ツェランと中国の天使

多和田葉子がドイツ語で書き、関口裕昭が訳した。パウル・ツェランはユダヤ系のドイツ語詩人で、両親をナチスに殺され、自身は労働収容所で肉体労働を強いられるなどの経験した後にフランスでその後を暮らし、しかしドイツ語で詩を書いてきた。そして剽窃疑…

ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた

このお気楽なタイトルの本は、筆者が毎日新聞からの誘いに応じて、2年間、様々な実地体験をした上での論考を記事にした連載をまとめたものである。「人新世の『資本主義』」を始め、資本論を中心に、マルコスの研究メモなどを読み込むという仕事は、確かに現…

無と意識の人類史

久し振りに広井良典を読んだ。「人口減少社会という希望」が「グローバル定常型社会」や「創造的福祉社会」の総括的な著書として書かれたが、それらからどう発展したか。正直、よくわからない。これまでも同じことを繰り返しているような気がする。だが、改…

小田嶋隆のコラムの向こう側

小田嶋隆が亡くなって半年が過ぎた。それまでは日経ビジネス電子版で連載されていた「ア・ピース・オブ・警句」を毎週読んでいた。いや、数年前から有料コンテンツとなって、全てではないが、月10本の有料購読内でできる限り読んでいた。昨春、ツイッターを…

大洪水の前に

「人新世の『資本論』」で一躍注目を集めた斎藤幸平だが、その原点は本書にある。角川文庫で文庫化されたのを機に、遅ればせながら読んでみた。想像通り、難しい。それでも先に「人新世の『資本論』」や「ゼロからの『資本論』」を読んでいたので、概ねの内…

ゼロからの『資本論』☆

2年ほど前に読んだ「人新世の『資本論』」は衝撃だった。資本主義の本質を暴き、「脱成長コミュニズム」を主張する。その後、斎藤は一躍、時代の寵児となり、NHKの「100分de名著」でも「資本論」を解説していた。しかも昨年の年末には再放送もあった。で、本…

べつに怒ってない

毎日、平凡に過ぎていく。特に退職して以降は、毎日・毎週。ほぼ同じルーチンで1日が過ぎていく。でも、外観的には同じようなことしかしていなくても、毎日違うことを考えている。同じことを考えていることもあるけど、自分の中では変化している。人は1分の…

第三次世界大戦はもう始まっている

本書が出たのは昨年の6月。収録されている文章や談話が発表されたのは昨年の3月、4月と一昨年の11月。そして2017年3月の談話が一つ。エマニュエル・トッドのウクライナ戦争に対する見方は最初から変わらない。 「第三次世界大戦はもう始まっている」というタ…

新・哲学入門☆

哲学者と自称する学者は多い。だが、その多くは、他や過去の哲学者を研究し、または手前勝手な思考を開陳することを主な活動としている。本当の意味で、哲学をしている学者は少ないように感じる。武田青嗣はその数少ない本当の哲学者の一人だ。 ソクラテスや…

日本解体論

政治学者・白井聡と新聞記者・望月衣塑子の対談本である。白井からは「国体論」や「長期腐敗体制」で論じてきた内容が語られる。一方、望月からは取材の現場の実情が語られる。後者もけっこうリアルで生々しく、また意外に知られていないこともあって興味深…

2022年、私が読んだ本ベスト10

今年読んだ本は51冊。都市・建築系の本を11冊読んでいるので、週1冊強のペースか。退職し、妻の介護と家事をする日々の中で、1日のペースも決まってきた。その中で、なかなかまとまって本を読む時間がない。最近は布団脇にスタンドを置き、寝ながら本を読む…

経済学の堕落を撃つ☆

過激なタイトルだが、まさに筆者の、現在の経済学に対する憤懣が籠められている。本書は、経済学のそもそもの始まり、ドイツが国家統一を果たし、ハプスブルク帝国・オーストリアから独立した19世紀後半から始まる。個人の「自由」を目指したオーストリア学…

最後の審判

岡田温司は継続的に、中公新書や岩波新書から、教会の壁画や絵画などからキリスト教を考察する本を出版している。今回のテーマは「最後の審判」。その審判の時には、死者も含めて、すべての人間は(終末の時にはすべての人間は死ぬ、という理解もある)、天…

物語は人生を救うのか

先に読んだ「人はなぜ物語を求めるのか」の続編。前著では、「人間はさまざまな出来事や経験を物語形式で理解してしまう存在である。そしてそれはしばしば誤った理解へ導き、自分自身を苦しめたりする。そのことをよく理解し、自らで作った物語で自分自身を…

太陽諸島☆

タイトルを見たときには、「地球にちりばめられて」「星に仄めかされて」に続く3部作の最終編とは思わなかった。Hiruko、クヌート、アカッシュ、ナヌート、ノラ、そしてSusanoo、6人揃って、Hirukoの失われた国をめざし、船で東へ向かう。船の食堂には6つの…

死刑について☆

先に「『死刑ハンコ』辞任騒動に対する違和感」という記事を書いたが、この騒動は、死刑制度について考える非常に良い機会だったと思う。だが、結局、それは辞任ドミノへと政治的に費消されただけに終わってしまった。 平野啓一郎は、その初期に何冊か本を読…

今日拾った言葉たち

2016年春から2022年夏まで、「暮らしの手帖」で連載してきたエッセイをまとめ直したもの。その間に13編のコラムが入る。欄外に「この頃の出来事」が記され、「マイナンバー制度開始」とある。同じページの本欄には「税収というのは国民から吸い上げたもので…

人はなぜ物語を求めるのか

「人はなぜ物語を求めるのか」? それは、人がそういう形式で認知するようにできているから。一言で言ってしまえば、そういうことだが、本書では、多くの事例でもってそのことを示していくとともに、物語化することで安心し、納得してしまうことに対して警鐘…

歴史学者という病

本郷和人は、テレビのバラエティ番組でもよく拝見する。ただ、これまで彼の書いた歴史書を読んだことがなかった。一つの歴史事象について徹底的に調べて解き明かすというよりも、歴史全般を対象に、トリビア的な事柄を披露しつつ、独自の視点から日本史を語…

掌に眠る舞台

小川洋子の最新短編集。劇場や舞台をテーマにした小品が8編。最初、テーマがわからなかった。作品のタイトルの意味もわからなかった。最初の作品は「指紋のついた羽」。町野文化会館で上演されたバレエ「ラ・シルフィード」を観に行った後、妖精「ラ・シルフ…

ミャンマーの矛盾

ミャンマーのロヒンギャに対する迫害やクーデターなどのニュースは聞いてはいたが、その内実まで深くは理解していなかった。本書は東京新聞(中日新聞)バンコク特派員として3年間、現地に滞在してミャンマーを取材してきた記者がその現状と実態をレポートし…

みんな政治でバカになる

「あとがき」の冒頭、「本書は…『オルタナレフト論』を加筆修正したものである……と本当は書きたかったのだが、すぐに更新が滞りがちになり…」、結果的に「『知識人と大衆という古めかしい問題を現代風にアレンジしてみた』に落ち着いた」(P249)と自己評価し…

ヨーロッパ史入門 市民革命から現代へ

「ヨーロッパ史入門」の後編は18世紀から現代まで。フランス革命やアメリカ独立革命以降の歴史については知っていることも多いが、それ以前はあまりしっかりとは頭に入っていない。そもそも神聖ローマ帝国やハプスブルク帝国、オスマン帝国などが隆盛を誇っ…

ヨーロッパ史入門 原型から近代への始動☆

○「ヨーロッパ」とは、地理的にも言語的にも、あるいはいわゆる人種や民族といった点でも、固定したものでは決してなく、多様な物質的・精神的な要素が入り混じってできあがっていったものです。そして広い意味での文化のまとまりとしてヨーロッパが形を整え…

DO YOU SPEAK FOOTBALL? 世界のフットボール表現事典☆

世界中でプレーされてきたサッカー。イタリアではカルチョ・フィオレンティーノこそ現代フットボールの起源だという架空の説が受け入れられ、フットボールと言わず、カルチョと呼ばれるように、各国でサッカー用語やサッカーにまつわる様々な表現が独自に発…

それでも世界はよくなっている

タイトルに惹かれて借りたが、小学生向けの児童書だ。「人はやさしさと共感と希望にみちている」という第1章に異論はない。第2章以降、政治、環境、医療、平等、芸術について、「悪いニュースばかりだと思うかもしれない」でも「少しでも良くなる方向でがん…

フットボール批評 issue37

今号の特集は「[プレーモデル][プレーコンセプト][プレースタイル]を再定義する」。多くの記事で「○○さんはこれらの言葉をどう定義していますか?」と聞くのだが、正直、読めば読むほど混乱する。そもそも私自身がこれらの言葉についてしっかりとした定義を…

現代思想入門

今年の春に発行された時、けっこうな話題となっていた。でも、千葉雅也って誰だ? それで、千葉雅也と國分功一郎の対談本である「言葉が消滅する前に」を先に読んでみた。でも、千葉がどうやら同性愛者だということ以外、あまりよくわからなかった。それで本…

マスメディアとは何か

日頃、とかくマスコミに対しては「マスゴミ」などと否定的に言ってしまうことが少なくない。一方、マスメディアの効果に対してはプロパガンダという言葉に代表されるように過大に評価し、恐れるイメージがある。本書では冒頭の第1章「メスメディアは『魔法の…